安瀬さんと羽根木公園を散歩。梅が見頃を迎えていて、狭い範囲に何種類もの梅が花を咲かさせてる。
「子供の頃、花きれいだなとか、思った?」
と安瀬さんが言った。子供の頃は花なんか見なかったと思ったけど、よく考えると桜が咲くのは好きだった。それは桜の樹に登るのが好きで、登ることのひとつとして花が咲いたら、パーっとした気分になったんじゃないか。半年に一度くらい、リザーブ給食というのがあった。肉か魚かを自分で選んで、普段は入れない古くておしゃれな部屋で給食を食べるのだ。肉にするとほうれん草とコーンのソテーが付いていた。ああ違う、リザーブ給食じゃない、それとは別にタテワリという、地域ごとに集まって、1年生から6年生までが一緒に下校したり遠足行ったりする授業があって、その一環でタテワリ給食というのがあった。校庭に出て食べていいって言われたんだ。大きなメガネをして、補聴器を付けていた男子がいた。四つくらい下だった気がする。樹に登って弁当を食べた。おれは若干高いところに登って、あいつは下の方、一番上りやすいコブの上に座って食べた。でも一緒に食べたのはあいつじゃなくて、ふたつくらい下だった、クマガイ君だったかもしれない。一時期仲が良かった。どっちにしろ、おれが樹から降りるためにはクマガイだか補聴器の男子かだかが先に降りないといけない。おれは太い枝の上に座ってて、もちろんジャンプして降りられないこともないんだけど、そういえば4年から卒業までずっと好きで、その後付き合ったけど、子供だけでカラオケ行ったのが母親に怒られて別れることになった及川は2年の時こっから飛び降りて骨折したんだった、いや、あっちにあるうんていだ。おれが及川を初めて見たのは、BOPの中にある「ひかりの庭」という中庭だった。「おばあちゃんがドクダミ茶作るんだって」と言った。少し手伝ったら、ありがとうと言われた。多分、1年の時だった。でも及川はこの時のことは覚えていない。おれは一生忘れないと思う。体育館の扉が開いていた。黄色とか青のゴムボールが弾む音がする。4年になってから仲良くなって、おれも及川も絵が好きだった、オレンジレンジも好きだったけど、それは及川が好きだっていうのを知って、アルバムを急いで買った、生まれて初めてのCD。おれは枝の上にいた、そこに花が咲いていた。桜の花。梅が良いと思えるようになったのはここ数年、「大人」とは思ってないけど、お酒も買えるしふきのとうとかも食べられる、もう「子供」じゃない、になってからだ。

羽根木公園にはプレイパークっていう広場があって、焚き火ができたり、おれが小学生の頃はそこでドラム缶風呂に入ったりしていた。おれは入ったら母親に怒られそうだと思ったからやめたけど、ケンタ君は入ってた気がする。事務所のようなところからボールを借りて、バスケをした。今までの感覚でシュート打つと、エアボールになる。かといって力を込めて打つとフォームが崩れる。そもそも地面も平らじゃないし、ボールがなかなか手につかない!と思いながら少し1 on 1 をして、気づくと前が見えない。手が痺れる。息が浅い。下着の白いTシャツが砂まみれになってる。安瀬さんがポカリ買ってきてくれた。笑ってる。
(腕を振りながら)「走れない。こうやって歩いてるおじいちゃんとか、もう笑えないね」と言った。

安瀬さんの家、家というか居候している場所は昔寿司屋だった居酒屋の2階にあって、とても綺麗だ。リフォームしたばっかりらしい。楽ちん堂の人が来て、3人で話をした。日が当たっていた。
「だんだんあったかくなってきた」
「散歩してたのは午前中でしたもんね」
「でも自転車乗ってると寒いよ、風が」
帰りに、ピンク色のパンをもらった。